養豚をやってみる〜No.4 断尾と去勢

出勤初日にやった作業の中で一番にメンタルを摩耗したのが、子豚の断尾と去勢だ。

合わせてペニシリンと鉄剤の注射もやるんだけど、それは簡単だし一瞬だからいい。


生後間もない子豚を取り上げて、まずは自分の太ももの間に後ろ向きに挟む。子豚はビックリして暴れ始めるから、エッて思うくらい強めに挟む。

チョロチョロ動かす尻尾を左手でつまみ、右手に持った器具で焼き切る。


焼き切るのは思ってる以上に時間がかかり、その間も子豚はピギーーーッ!と悲痛な叫び声をあげて泣きながら暴れまわっている。ちょん切った尻尾はバケツに捨てる。


焦ると焼ききれず、出血してしまうので慎重に、思い切って。躊躇すると尻尾が暴れて抜けてしまい、もう一度やらなくてはいけない。


続けて、今度は仰向けに太ももに挟んで、きんたまの所在を確認したら陰茎をニッパーでパチンと切る。

切れ目から睾丸をしぼりだして、尻尾と同じバケツに捨てる。それを、もう片方も。そして消毒を吹きかける。


こちらも焦ったり躊躇すると中の薄皮が残ってしまったり、切れ目が小さすぎて絞り出せなかったりして、もう一度痛い目に合わせる羽目になる。


最後にペニシリンと鉄剤を首の筋肉に注射して、檻に戻す。檻に戻すと子豚はよろめきながらママ豚に擦り寄って、ママも優しく子豚を迎え入れる。その姿を確認して、次の一頭。


こんな流れを、初日に13頭分繰り返した。


大変な恐怖に、手も足もブルブル震わせて、頭からはシャワーみたいな冷や汗を垂らしながら、先ほどの子豚の死の悲しみも引きずりながら、涙も流れてくるし、もう狂乱状態である。


しかも初体験でもちろん技術もないものだから、すんなりいけることの方が少なく、子豚には大変申し訳ない気持ちでいっぱいになる。


子豚を太ももに挟んだまま、深呼吸をしたり汗でビショビショになったゴム手袋を直したりすると、子豚は油断するのか大人しくなって、その度に絞め殺してしまったか!?とまた冷や汗を流す。


やっとの思いで、本当に死ぬような思いで、ようやく13頭を終わらせたのだが、その間にTさんはなんと40頭分を終わらせていた。


僕は「???」となった。


午後イチにまたエサやりをした時、僕が断尾と去勢をした子豚たちが死んだりしてないか気になって仕方なくなり様子を見てみると、子豚たちはまるで何事もなかったみたいに遊んだり眠ったりしていた。きんたまとしっぽを取られたことなんて忘れてるみたいに見える。


しかし豚には痛覚がないというわけではないし、怖い思いをしているんだから、なるべくなら手早く終わらせてやりたい。


Tさんには「落ち着いて、はじめはいくら失敗してもいいから」と言われて、放心状態の僕は二つ返事でハイと答えたけど、よく考えるとこんなに失敗の怖い作業もなかなか無いと思った。