夏の終りの祈り

窓を開けたまま横になって

しずかに部屋の灯を 消す

暗く視界のない部屋に入り込んでくる

そよ風のにおいは もう ほとんど秋だ

風を思い切り吸い込んで

真っ黒の肺を 秋で膨らませてみる

 

そろりとやってきたのは 思春期だ

哀しみと憎しみ 孤独と苦悩

それしかない、

それしかない思春期のできごとが

もう三十歳にもなる僕を いじめる

 

暴力、虐待、SEX、ロリコン覚醒剤

児相、閉鎖病棟、金、家族、同性愛

 

あの日の僕に会えたなら 会えたなら

きみの明日は、未来は、まだある。

まだ完全に奪われたわけじゃないんだ

と そう声をかけて 強く抱きしめたい

 

思春期のきみは

きっとそんな僕に 怯えた瞳を向けて

無言で殴るだろうね

僕のことだからわかる よくわかる

 

きみを 知ってるんだ

きみが信じる人間は

もう会えない実父と

テレビの中の金八先生しかいない

そんなことも知ってるぞ

でも笑わないよ

 

まだ現代にタイムマシンがなくて

ごめん

こうして十数年後の未来から

ただの祈りを捧げることしかできなくて

本当にスミマセン

どんな渾身の祈りも届かぬということ

きみは知っているのに

 

胸が潰れた

苦しみに頼まれて断れず窓を閉めた

どうして、どうしてこんなに

 

お願いします

大人の僕の方で良ければ 何でもします

命もいりませんので どうか

あの子を慈しんでください

 

受験、いじめ、不登校、部活、教師、友達

そんなことで悩むような

健全な暮らしを日常を

どうにか与えてください

どうか、このとおりですから

どうかお願いします

 

祈りは

どんなちいさな祈りも

本当は届くということ

今の僕は知っています